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諸熊仁志展─巡る─

反転した世界への希望

 かわいらしく立ち、座り、そして遊ぶ小さな人物たち。くびれのない体で、腹部のあたりがゆったりと膨らむ。その頭部や背中には吹き込み口があったり、また、空気が出ていかないようにゴムを縛ったかたちが丁髷のようについていたりする。吹き込み口が気になり始めると、ブロンズの鈍く光る表面が妙に柔らかな質感を帯びてくるようだ。蝋型鋳造という制作方法ゆえに作品自体が必然的に持ってしまう内部の空洞が、比喩的に外形に現れて表現と一体化しているといえよう。しかしそれよりもこの空洞を孕んだ人物たちは、作者である諸熊仁志の心の空洞がストレートに表されたものと解釈したい。
 その空洞のため、諸熊は一人アトリエに籠り、目の前にあるあらゆるものを雄型と雌型に見立て実験的な鋳造を繰り返す。その産物が人物たちの一人遊びの道具となっていく。
 それでもなお、口をあけたら抜けてしまい、満たされすぎたら破裂してしまう。その言いようのない不安を強固な表皮のうちに収めつつ、諸熊が作り出す虚ろな人物たちは、無言で佇み、軽く目を瞑る。
 自分の思索を鎮静させ、表現と方法の結びつきを強く意識して制作をしてきた諸熊の作品に、近年変化が起きている。人物たちは集められ、時には融合し、そして特殊な場が設定されるようになった。静かに佇んでいた人物たちはもはや孤独ではない。胴体がなくなり頭部だけになったとしても、寄り添い共に生きる場所ができた。この大きな転換の理由として諸熊は東日本大震災を挙げる。しばらく制作が止まり、ようやく本格的に再始動した時に取り組まなければならなかったのが、虚ろな人間たちの集合体であり、彼らを取り巻く世界だった。諸熊が15年近くにわたって制作してきた私のなかの空洞が、あの日を境に反転し、世界が空洞になってしまったと考えるべきだろう。虚ろになった世界全体を包み込む被膜はないため、その裏返された世界の内側に、虚ろな人物たちのための居場所が作られた。
 しかし、諸熊にとっての虚ろとはなにもないことではなく、その表情も諦めや慨嘆ではない。もとより人物たちはLife Ring、Life Energyと名付けられていて、その空洞は生きていくために必要な要素を取り込むためものだった。集合体となった人物たちがそれまでと同じように孕んでいる空洞、そして空洞となってしまった世界は、生が満ちていく希望としてある。

野田 尚稔
世田谷美術館学芸員

略歴

    1971
  • 宮崎県に生まれる
    1996
  • 多摩美術大学美術学部彫刻科卒業
    1998
  • 多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
おもな個展
    1998
  • ギャラリー21+葉ANNEX/東京
    1999
  • ギャラリー21+葉/東京
    2002
  • ガレリア・グラフィカ bis/東京(2004、2005、2006、2008、2010)
    2003
  • ぎゃらり かのこ/大阪(2006)
    2004
  • 画廊 編/大阪
    2009
  • ギャラリーMITATE/東京
    2010
  • 東武百貨店船橋店美術画廊/千葉
    2015
  • ル・ベイン/東京
現在 多摩美術大学美術学部非常勤講師